神よ、わたしたちをあなたの平和の道具としてください

新潟教区の皆様

 ロシアがウクライナに対する大規模軍事侵攻を開始してからすでに3週間も経ちました。テレビやインターネットで、非人間的な状況が毎日伝わってきます。避難生活を送る人、家族を亡くした人、生活も、町並みも、すべてを壊されてしまった人々のことを考え、自分の無力さを思い知らされます。

 わたしは2004年から2006年まで、カトリック教会がどのように社会問題に取り組んでいるのか学ぶために、いくつかの教会の団体で研修をするためアメリカに滞在していました。当時は2003年に始まったイラク戦争が継続しており、わたしはその時初めて、戦争を現在進行形で行っている国に住むということを経験しました。社会の中で様々な主張が飛び交う中でわたしが当時一番強く感じたのは、「戦地に行った自分の家族や知り合いがとにかく無事に帰ってきてほしい」という人々の思いです。戦争というものは、「勝とうが負けようが、戦地で市民が死のうが、体制がどう転ぼうが、どっちでもいい。ただ、自分の息子が無事に帰ってきてほしい」と人々に思わせるものなのだ、と思い知らされました。人間の尊厳や物事の道理の優先順位が著しく低くなる戦争に恐怖を覚え、とにかく戦争ははじめてはならないのだと強く思うようになりました。

 その頃わたしは、毎週火曜日の朝の人々が出勤する時間に、イリノイ州政府ビルの前で行われていた「祈りの集い」に参加していました。無言で、メッセージの書かれたプラカードを持って、ただ1時間立っているという集いです。プラカードには、非暴力、個人の非難をしないなどの原則に従った祈りのメッセージが書かれています。わたしが一番好きだった言葉は、「I pray for all victims of violence」(わたしはすべての暴力の被害者のために祈ります)です。味方も、敵も、市民も、すべての暴力の被害に遭う人のために祈る言葉です。また、戦争ではなくても、世界には紛争で日常的に人々のいのちが脅かされている国が多くあります。その人々への祈りでもあります。わたしたちが住む町にも、DVやいじめなどの暴力に苦しむ人が多くいます。これらの人々のためにも祈ります。そしてこの祈りは、暴力では何も解決しないという意思表示でもあります。

 ところで、わたしがローマにいたとき、聖霊会のシスターテティアナというウクライナ人のシスターと度々ご一緒していました。彼女は今ウクライナに人々とともにとどまっています。シスターテティアナは、灰の水曜日にYouTubeでビデオメッセージを送ったのですが、暴力にさらされる中での祈りの強さをわたしたちに伝えています。以下は、そのメッセージの後半の一部です。

   「わたしたちは戦いを続けます。武器による戦いだけでなく、霊的な戦い。祈り続けます。皆さんとともに、祈りによって戦い続けます。……

 四旬節が始まりました。死と悪は、最終的なものではありません。最後にあるのは、神のあわれみ。神の愛。わたしたちは、憎しみに飲み込まれることはありません。分裂を望みません。敵を愛することは難しいですが、祈ります。わたしたちを殺そうとしている人と同じようにならないように祈ります。わたしが許すことができるようにと祈ります。わたしが、助けを必要としている人に手を差し伸べることができるよう祈ります。わたしが、神の慈しみの顔を示せるよう祈ります。神は、わたしたちとともにいます。本当にそう感じるのですが、神はわたしたちとともにいます。神は、この難しいときにあって、わたしたちに奇跡を見せてくださっています。わたしたちは、御復活を待ち望みます。典礼の復活祭を待っていますが、それと同時に、わたしたちの国の復活も待っています。

 わたしたちは、立ち上がります。わたしたちは、立ち上がります。神が、わたしたちを立ち上がらせます。あなたの尊い祈りによって。あなたが真実と善と人権のために立ち上がることによって。死ではなく、いのちのために。

 心から感謝しています。どうか、祈り続けてください。わたしたちは祈りによって結ばれています。」

 皆さん、ともに祈りましょう。一刻も早く、戦闘が終わりますように。すべての人の尊厳が守られますように。亡くなられた人々には永遠の安息を、残された家族には慰めがありますように。正義に基づいた平和な社会が実現しますように。神よ、わたしたちをあなたの平和の道具としてください。

 教皇フランシスコは四旬節メッセージで次のように述べています。「神から見れば、愛の行為は、どんなにささやかでも、そしてどんな「惜しみない努力」も、決して無になるものではありません。」わたしたちのどんなに短い祈りも、どんなに小さな愛の行いも、必ず神が平和のために用いてくださると信じて、祈り、行動していきたいと思います。

 なお、ウクライナと周辺国のカリタスは、現地で難民支援活動を行っています。カリタスジャパンはこのための募金を受け付けておりますので、ご協力をお願いいたします。詳細は教区のホームページ、または小教区にお問い合わせください。

2022年3月17日

カトリック新潟教区 司教
パウロ成井大介

 

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